命の水

5月 コリー

この3月まで勤務していた学校は全日制、定時制、通信制がある単位制のいわゆるニュータイプの学校でした。単位制と言うのは授業が選択でき、生徒個人のニーズに合った学習が学年制よりしやすいことは確かですが、学習意欲がない生徒にとっては、卒業しにくいシステムなのです。神奈川県の公立高校入試には長期欠席申請という制度があります。長期欠席を理由に入試で不利にならないようにというのが建て前ですが、厳しい現実があることは変わりません。

定時制・単位制システムというのが、不登校であった生徒に適しているというのが、10年間の定時制高校勤務で得た実感です。勤務校では、長欠申請者で入学した生徒の72~3%が、元気に通学し、卒業していきました。特に中学校には通えなくても、市町村の支援教室に真面目に行っていた生徒はほとんどが卒業できました。ただし、長欠申請者の中で、怠学を理由として学校に行かなかった生徒にとって、単位制システムは厳しいものでした。

小学校、中学校で不登校を繰り返し、勤務校でほとんど休むことなく通学できた生徒に「どうして学校に通えるようになったのか。」と聞くと、「静かな学習環境と自分の気持ちが分かってくれる不登校経験者が居た。」という事をどの生徒も理由としてあげていました。定時制高校はいわゆる不良の集まりと言われた時期もありますが、教員の努力しだいで、静かな学習環境を守ることができます。そして、何よりも不登校だった自分の気持ちを理解してくれる同じ経験をした友との出会いが気持ちを前向きにしてくれるのです。

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ハーバード大学医学部教授・アンドルーワイルさんが、書かれた「癒す心、治る力」につぎのような一節があります。 「その病気を治す最良の薬は、その病気から立ち直った人の話を聞くことだ。」この本の副題は「自発的治癒とはなにか」ですが、不登校・ひきこもりは本人のみが解決できることなのです。私達にできることは見守ること。そして、あせらない、くらべない、あきらめないことです。

 不登校やひきこもりになる理由は、千差万別ですが、人との関わりが薄くなっている状況を改善し、子ども自ら問題解決への道を進むには、居場所探し、すなわち、魂の友・ソウルメイトとの出会いが必要なのです。

すべての方にとって、実はソウルメイトはどこにでも居るのですが、しかし、多くの方はソウルメイトがそばに居るのに気づかないのです。
大学時代に越前先生と言う神父でありながら、親鸞の歎異抄を教えている方がいました。授業の中で学生から「神とはどこで会うのですか?」という質問がありました。先生は「神とは大自然の中で会う。」と言われました。なぜ、大自然の中なのかと私なりに考えましたが、学生の頃はその答えを見つけることはできませんでした。

八方尾根スキー場に行ったときです。その日は快晴で、リフトのある最上部から1時間ほどスキーをかついで、同僚と登りました。眼前には北アルプスの山々のまさに神々しい姿がありました。同僚は思わず、手を合わせ、山々に祈りました。この時、越前先生の言われた「神とは大自然の中で会う。」という言葉を実感できました。

大自然、雄大な景色の中では自分と言う存在がとても小さく感じられるものですが、そのような場所では、人の心の変化が起きやすく、いわゆる気づきが起こるのです。気づきというのが神との出会いなのかもしれません。つまり、神やソウルメイトとは大自然の中で会うと言っても過言で無いのだと思います。

人間は一人では生きていけません。人との関わりがうまくいかなくなった人たちには、様々な人々と時間と空間を共有することが必要です。ミハエル・エンデさんの代表作・はてしない物語に、「元帝王たちの都」という章があります。ここには、ファンタジェーン(彼岸)に行って、現実世界に戻れなくなった元帝王達が住んでいます。この物語の主人公・バスティアンは「命の水」を飲んで、彼岸からようやく現実世界(此岸)に帰ってくることができるのです。私には、この元帝王たちと不登校やNEETになっている方たちと重なる部分が見えるのです。そして、すべての方にこの「命の水」が必要なのだと思います。

先日、最終回を迎えたドラマ・金八先生の回想シーンの中で、金八先生が次のように言います。「立派な人にならなくても良い。感じの良い人になってください。」とても素敵な言葉なので、私の退任式の言葉にさせて頂きました。感じの良い人とは思いやりや優しさのある人間です。保護者、教員が一番考えなければならないのは、子どもの進学、就職ではなく、思いやりや優しさのある人間に育てることなのです。

あせらない、くらべない、あきらめない。そして寄り添うことを忘れない。私は必ず、相談される方には、この事をお伝えします。

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